Tuesday, 31 October 2017

Pleaseという病:日本人英語のどうかしている誤解

Mind the Gap


London Underground (tube)で耳にする典型的なアナウンスといえば、
"Mind the gap."「電車とホームの隙間にご注意ください。」
が真っ先に挙げられる。Mind~と始まっていることからわかる通り「命令形 (imperative)」が用いられており、the gapというのは「話し手(アナウンス)と聞き手(乗客)の間で共通認識される『隙間』」を表しており、何を指しているのかを特定するには文脈を参照する必要性が生じる。

一方で、日本で電車や地下鉄に乗っていると、"Please watch your step when you get off."やら "Please change here for the OO line and the XX line."のようなアナウンスを(どの鉄道会社でも)耳にする。

これを見て「ロンドン交通局は不親切で不躾だ!」と憤るのは早計であり、むしろ "Please病"に罹患してしまっている症例である。

Please = 「どうか」

Pleaseを「どうぞ(〜してください)」という日本語に相当する表現だと誤解している学習者は非常に多いが、実際には「どうか」の方が近い。歴史的には if it please you「御意に叶いますならば・差し支えありませんでしたら」にさかのぼる表現であり、聞き手にとってはマイナス(手間など)になることを要請する際に用いるスイッチなのである:
(1) It's cold in here.
(2) Please, it's cold in here.
(1)は「この中は寒い」という単なる事実を述べているだけでもありうるし、発話状況によっては「窓を閉めてください」や「暖房をつけてください」などの意図を表すこともできる。言い換えれば、(1)単独では話者の意図を特定することができないのである。

一方で (2)のように文頭に Pleaseを置くと、「どうか、『寒い』という状況を改善するための何らかの行動をとってください」と聞き手に要請する解釈に限定される。

どうか乗り換えてくださいm(_ _)m

これを踏まえて冒頭に挙げた日本の電車アナウンスを再考すれば、pleaseをつけることで丁寧どころか奇妙な印象を与える結果になっていることが理解できるであろう。

足元に気をつけることによって利益(安全)が得られるのは、聞き手である乗客であって話し手ではないし、鉄道会社に請われて電車を乗り換える人もまずいないだろう。

※ 付言すれば、"Please change here for the OO line and the XX line."では文中の andも「両方とも」を表すために違和感を生む。忠実に日本語で表すと「どうか、私どものために、ここでOO線とXX線に同時に乗り換えてくださいm(_ _)m」という意味になる。

疑いと検証の姿勢を

日常生活の中で繰り返し見聞きすることで、知らず知らずのうちに刷り込まれてしまうような日本国内にある "英語表現"は、残念なことではあるが、まず疑ってかかった方が懸命と言える。

今回紹介したような、誤解に基づく奇妙な "英語表現"は、日本語をそのまま英語に「置き換え」ようとすることによって生み出されてしまう。そうではなく、「日本語でこのような言い方をする状況において、英語ではどのような表現を用いるのか?」ということを常に確認することが大切。そうすれば、英語文化では「相手の益となることは『命令形』でさらりと言えば事足りる」ということや、「文脈から特定できる対象はくどくど言わず、the gapのように必要最低限だけで済ます」ということが見えてくる。

☆Here is the Path to Wonderland★

◯◯鉄道さんの頼みなら、一肌脱いで乗り換えてやろうってぇじゃねぇか!

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(参考文献)


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Thursday, 12 October 2017

MRIで発音を"斬る"!

Videos: Gimson's Pronunciation of English (8th edition)

面白いページを見つけたのでシェア。
→ http://www.routledgetextbooks.com/textbooks/9781444183092/video.php
15個の英語フレーズを発音している際の口の中の様子を MRIを使って捉えた動画を見ることができます。

MRIの機械自体が大きな音を出してしまうため、実際に発音している音声が聞けないのは残念なのですが、舌などの動きのポイントに合わせた解説(英語)と照らし合わせて「ナチュラルスピードの英語発音で何が起こっているか?」を観察することができます。

こうやって見てみると、例えば…

[Video 3: Dream of debt]

dreamを発音する際の [d]の舌先のポジションは、直後の [r]の影響を受けてかなり後ろに寄っている。(debtの [d]と比べて見ると良い)

[Video 6: Pain in the mouth]

painの語末の [n]から in the ~と移行する際、実は inの [ɪ]は省かれ、舌先が上歯茎→前歯の裏→前歯の先端 (TH [ð]の位置)へとスライドする格好になっている。(よって日本語ネイティヴには inが認識しづらく、*pain the mouthのように聞こえがち:イメージとしては「ペィン〜ザ」のような感じ)

[Video 12: Guard my thumb]

guardの語末 [d]で舌先は上歯茎につけるものの、それを離すより先に myの [m]のために両唇が閉じられるため、[d]は開放されずに「一瞬の間(無音状態)」にしかならない。(「ガードゥ・マィ…」と発音するようではトロすぎる:「ガーッマイ」のようなイメージ)

といったことが、文字通り "見て取れ"る。

発音とリスニングの密接な関係

さて、これを見て「確かに!(自分でもそう発音している)」と思うか、「マジで?(そんな発音の仕方してるの?)」と思うかが、ナチュラルスピードの英語が聴き取れるかどうかの大きな分岐点となる。自分の口の動かし方と全く異なる方法で発せられた音声を「同じ」単語やフレーズとして認識できるとしたら、その方が奇跡である。

ガリレオ研究室では MRIの機械まではさすがに実装していませんが(笑)、ガリレオの耳と目をもってすれば、MRIと同等の正確性で、あなたの口の中の動きとネイティヴの自然な発音時の「ズレ」を測定できます。

上に紹介した以外にも、様々な気づきが得られる動画ですので、ぜひ自分の口を動かしながら(←ここ重要!)全15フレーズの発音を研究してみてください。
→ http://www.routledgetextbooks.com/textbooks/9781444183092/video.php

★ Here is the Path to Wonderland☆

MRIには発音指導・矯正はできないからねぇ…( ̄∇ ̄)



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Thursday, 5 October 2017

【ガリレオ研究室】「生徒のレビュー」更新!

生徒のレビュー_N.H.さん

お仕事で英語が必要ということで受講された N.H.さん(40代・男性)よりご感想をいただきました。リスニングを中心とした総合トレーニングとして、BBC Learning Englishの "English at Work"を題材にしたレッスンを 12回ご受講いただいてのご感想です。

→ 生徒のレビューを読む

N. H.さんが「改めて文法が重要であることを認識しました。」と実感してくれた通り、リスニングにおいては「①文法的知識に基づいた予測」「②正しい英語の発音/リズムと、自分が口に出す発音/リズムの差を限りなくゼロに近づけること」が両輪を為します。
実際に N. H.さんとの授業であった例のひとつとして、"find solutions ---- the problem"というフレーズの空所を聞き取って埋めるタスクの際、toforかで迷ってしまったということがあった(正解は to)。

カタカナ発音的に「トゥー」vs.「フォー」なのであれば迷いようもないだろうが、実際の英語としての発音では弱形で / tə / vs. / fə /となるので、両者の聞き分けは想像以上に難しい。もちろん、閉鎖音 / t /なのか摩擦音 / f /なのかを細かくキャッチできる力も重要であるが、この場合は特に直前に摩擦音 / s /が来ていることもあって難易度が高い。

一方で、前置詞 to / forの本質および problemに対する solutionの関係をあわせて考えると、forは単に「方向(性)」を表すのに対し、toGOALの意味概念を担い「到達」の含意を持つ:
  1. She left for the station, but she didn't get there.
  2. ?She went to the station, but she didn't get there.(←矛盾した内容となる)
(佐藤芳明・田中茂範 (2009) 『レキシカル・グラマーへの招待』開拓社, 東京)

ここで、solution(解決策)は problem(問題)に対して「到達」して然るべきものであることを踏まえると、上のフレーズは "find solutions to the problem"が適切と判断できる*。経験則ではあるが、「このように言うはずだ」という予測が頭の中に立つほど、実際に正しく聞こえてくる実感を得られるようになってくる。


リスニング学習においては、「スクリプトを読めば理解できる・そのような表現をすることを知っている」のであれば、上で言う②の発音矯正をメインとした対策が必要であり、「読んでもわからない・腑に落ちていない単語や表現がある」のであれば、①の文法理解を深めるアプローチから始める必要がある。

★Here is the Path to Wonderland☆
Problemsの原因に応じて、当然 solutionsも異なる。


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