Thursday 23 June 2016

【London ことば・文化探訪】#9 レストランに入る

■注文方法から見えてきた日英食文化の違い

Harry Potterのスタジオ見学ツアーから戻り、遅めの夕食へ。スタジオにもレストランはあったのだが、グッズショップすら素通りしなければいけなかった中、いわんや食事の暇など…という話。恐らく、時間の決まっているツアーで行く場合は、食事は別途考えた方が良いと思われる。

そんなわけで、Kings Cross駅の mezzanine | ˈmezəniːn | :「中2階」の shared service yard にあるイタリアンレストラン Prezzoに入ってみる。
レストランの入り口には Please wait to be seated.「席にご案内するまでお待ちください。」と書かれている場合が多いので、waiter/waitressが来たら 'A table for 人数*, please.'と伝えて案内してもらう。(*1人ならば a table for one, 2人ならば a table for two...といった要領)

SPAGHETTI WITH KING PRAWNS

Spaghetti with King Prawnsを注文。セット内容は ClassicLightから選べて、サラダが付いてくる Lightを頼むことにした。(Lightはサラダが付く代わりにパスタが少なめになる…とは言っても、日本の感覚からすれば「普通盛り」くらいの量はあるので、個人的にはこの選択で当たりだった。)

さて、注文の際に 'And for dessert...'と言いかけたところで、waitress'You can order dessert later.' と制される(^_^;
デザートは食後に追加注文するのが作法という意味なのかどうかは分からないが、海外ではこうした「暮らしのリズム」のちょっとしたズレに気づかされることが多々ある。

別段コース料理を頼んでいるわけではないが、やはりヨーロッパの食事文化の発想では、料理はコースの一環として線的に捉えられるということが基盤にあるのだろう。
一方で、和食文化の発想では、「一汁三菜」といった言い方にも表れているように、「お膳」という単位を元に面的に料理が出てくるイメージを抱きやすい。

だからこそ、「デザートを食べない」ということを表すのに、
  • 日本語→デザートを抜く(面の構成要素を減らす)
  • 英語→ skip dessert (順番に来るものを飛ばす)
といった言語表現の違いが生じることにもつながってくる。

■現実世界の英会話

パスタとサラダを食べ終え、デザートの注文に再び挑む。
(ところで、追加注文システムは、もしもお腹がいっぱいになったら単純に skip dessertすれば良いだけなので、その意味でも好ましい方法なのかもしれない。)

意気揚々と、最初の段階から目をつけていた「Panna Cotta (with a summer fruit compote)をください!」と伝える。
'Unfortunately, we don't have panna cotta today.'
「申し訳ございませんが、本日パンナコッタは切らしているのです。」
にゃんですって
DHC タマ川ヨシ子 LINEスタンプより

'Which ones are available?'「どれならあるのですか?」とお伺いを立ててみると、要するに everything but panna cotta:「パンナコッタ以外なら全部大丈夫」ということらしい。現実世界の英会話では、型どおりの注文をして首尾よく希望が叶うばかりではない。もっと言えば、想定通りに事が進まなかった時に軌道修正できてこその語学力である。

とりあえず、'Then, let me think again.' と伝えて再検討に入る。ケーキなら、並びに takeawayの店もあったなぁ…などと思いながらも、料理も美味しかった事だしデザートも食べていく事にする。

改めてチーズケーキ(raspberry sauce添え)を注文すると、閉店が近くなったという事もあったのだろうが、今度はコーヒーマシンがもう使えないからコーヒー系の飲み物は出せないとの事。こちらとしても夜にコーヒーという気もなかったので構わないと言うと、本来 hot drinkが付くものだからということで、まさかの白湯 (;ー▽ーA

せっかくのご厚意は半分程度いただき、こうしてまたひとつ Londonでの貴重な文化体験となった夕食を、無事に済ませるに至った。


Friday 17 June 2016

【London ことば・文化探訪】#8 魔法の coachに乗って Harry Potterの世界へ(魔法編)

■The Making of Harry Potter

今回の記事では、いよいよ魔法の世界へ − Warner Bros. Studio Tour London - The Making of Harry Potter の見学ツアーについて書いていこうと思う。

ここではガリレオも、普段 Muggle の世界では抑えている magical power を余すことなく発揮することができるというもの。ちなみに、ガリレオは Luna Lovegood と同じ Ravenclaw 寮です。

The Making of Harry Potter 1
DVD + 2 PHOTOS で £40

このツアーでは、Studio JStudio Kという2つの建物 (+ 中庭) を通って

  • Dumbledore先生の校長室などの実際のセットを見たり、

Prof. Dumbledore

  • Hogwarts Expressに乗ったり、

Hogwarts Express

  • Number 4, Privet Driveの Dursley家を訪れ(に押しかけ?)たり、

Privet Drive

  • Diagon Alleyでのウィンドウショッピングを楽しんだりすることができる。

Diagon Alley

大体のツアーでは、現地で3時間程度の自由行動になると思うが、時間配分には若干注意が必要かもしれない。なんと言っても、集合時間の7時には駐車場に戻らないと、送迎の coachは魔法のように消えてしまうと釘を刺されていたのだ。展示をじっくり見る時間は充分あったけれど、最後の gift shopは素通りする羽目になってしまった。

(その意味でも、滞在後半に Kings Cross駅(!) 直近のホテルに滞在したことが幸いした。Platform 9 3/4 のあるこの駅には、その名も The Harry Potter Shop at Platform 9 3/4というオフィシャルショップがあり、散財には事欠かない。)

■Muggle: 新語を作る仕組み

もともと 'a person who possesses no magical powers' の意味で Harry Potterに登場する muggle という単語は、2003年に英語辞書の権威である Oxford English Dictionary に収録されている。(より一般的に 'a person who is not conversant with [〜に精通していない] a particular activity or skill' の意で掲載されている。)

ベストセラー小説は時代ごとに生まれるが、作者の想像力・創造力によって作られた新語が「辞書に載る」という領域にまで達するためには、やはりその作品が時代を経ても読み継がれていくと確信できるだけの魅力を放つ必要があるだろう。

文学作品から誕生した新語が英単語として定着した(よって、辞書にも収録されている)例として、真っ先に頭に浮かぶものといえば、『鏡の国のアリス』に出てくる chortle:「(ガハガハと)嬉しそうに笑う 」がある。その意味では、ハリーポッターも、世界中の子どもたちに愛される文学作品として、アリスと肩を並べようとしている様を目の当たりにしているような気になってくる。

この chortleという動詞は時代を超え、Harry Potter and the Philosopher's Stone の中でも使われている:
(Mr Dursleyが、朝「行ってきます」のキスをしようとするも、かんしゃくを起こしている息子 Dudleyの姿を見て)

'Little tyke,' chortled Mr Dursley as he left the house.
「しょうがない子だ」と言いながらも、嬉しそうに笑うと家を出た。
まだ見ぬ次の時代の名作の中では、J. K. Rowlingの創り出した単語が受け継がれるのであろうか?ことばのロマンスは尽きない。

さて、muggle にせよ chortle にせよ、新語・造語とは言っても全くでたらめに生まれたわけではない。むしろ、英語の語形成の規則に基づいているからこそ、英単語として「自然に」受け容れられ、定着するのである。

Muggle の場合は、mug: 'a person who is stupid and easily deceived' に、「小さい」の意味の名詞を作る接尾辞の -le を付けて作られた単語である。

一方 chortle は「混成語 (blend)」または「かばん語 (portmanteau word)」と呼ばれ、二つ折りの旅行かばんの両側に1語ずつ単語を詰めて蓋を閉めたかのように、chuckle:「くすくす笑う」と snort:「鼻を鳴らす」を合わせて作った単語である。

夢のような魔法も、正しい呪文 (magic spell) を「正しい発音で」言ってこそ効果を発する。ことばとは、muggle の日常世界からファンタジーの世界へとも言えよう。

魔法を学ぶなら Hogwartsへ。
ことばを学ぶならガリレオ研究室へ。

Tuesday 7 June 2016

【Londonことば・文化探訪】#7 魔法の coach に乗って Harry Potterの世界へ(移動編)

■ Coach driver直伝! coach  bus の違いとは?

London滞在4日目には、coach | kəʊtʃ | と呼ばれる大型の観光バスに乗って少し足を伸ばし、Warner Bros. Studio Tour London - The Making of Harry Potter の見学ツアーに参加。ここでは、Harry Potter seriesの映画撮影に使われた本物のセットや小道具、衣装、特撮技術などに触れながら、世界を魅了した映画の制作過程を学ぶことができる。

ただ今回の記事は、そこに辿り着くまでの coach や、道中 driver が教えてくれたことに注目して書いていこうと思う。

この観光ツアーの出発点となったのは、Victoria Coach Station というバスターミナル。とはいえ、Londonにおいては buscoach は厳密に使い分けられており、その証拠に Victoria Bus Station というと数マイル離れた全く別の場所になってしまう。

先日配信・録画アップロードを行った Live from London-extra(←解説箇所にリンク)でも触れましたが、coach driver直伝の bus / coach の区別の方法とは…
A bus is driven by a bus driver; a coach is driven by a gentleman.
 とのこと(笑)。

まぁ実際には、ロンドンで bus というと、典型的には double-decker と呼ばれる赤い二階建て路線バスのことを指す。

double-decker
double-decker

一方で coach とは、昔は大型4輪馬車のことを指し、現代では大型の長距離観光バスのこと。

coach
coach

Busは路線内の始点〜終点間でいくつもの bus stopに停車するが、coachは基本的に途中停車せず、決まった客を出発地から目的地まで運ぶもの、という区別も可能だろう。

さて、(自称) gentleman たる coach driver の軽妙な jokeを楽しみながらの道中、気をつけなければ見逃してしまうような Londonの街の模様についてのお宝情報を得ることができた。

■ Georgia ~ Victoria朝の fanlight

Londonの街並みで特徴的に目につくものの一つに、fanlight と呼ばれる扉や窓の上にある扇形の明かり窓がある。

fanlight
fanlight

BBCドラマ Sherlockの撮影の際には 221B Baker Streetの flat になるSpeedy's Cafeの隣の扉や、The Sherlock Holmes Museumのある現在の 221B Baker Streetの扉の上にも、こうした fanlight が付いている:

221B Baker StreetSpeedy's Cafe

これらは、機能的には玄関広間 (hallway) に太陽光を多く取り入れるためのものだが、ジョージ王朝時代を代表する建築デザインとして発展し、特に住宅地で semidetached(二軒一棟)や terraced house(連棟長屋)形式の建物が並んでいるところでは、このデザインがそれぞれ微妙に異なるというのがミソなのだそうである。

というのも、上の写真の「221B」のような door numberが付けられるようになったのは、ジョージ朝より後のヴィクトリア朝時代。それまでは、この fanlight こそが「番地」を示す働きを一身に担っていたらしい。そのために、家の造りは隣同士よく似通っているものの、fanlight だけは各々独自のデザインでその姿を主張しあい、街並みにアクセントを加えている。

このツアーの coach driver が言及してくれなければ、おそらく気がつかないまま Londonを後にしてしまっていたことだろう。間違いない、彼は gentleman であったのだ。

Saturday 4 June 2016

【London ことば・文化探訪】#6 日本のスイカは英国の牡蠣

先日配信→録画アップロードを行った Live from London-extra は、内容盛りだくさんで全体としては約1時間半にも及んでしまいました (^^;

今回は、まず気軽に授業内容の美味しいところを視聴いただけるように、「ロンドン交通事情」について切り出した short movieを新たに公開しました!



■スイカは「チャージ」・Oyster"top up"

動画でも紹介している通り、今やロンドン生活には欠かせないと言えるアイテムが Oyster card です。その名の由来についての解説は動画をご覧いただくとして、本記事では Oyster card を使いこなすために、日本人にとって忘れてはならない注意点をシェアします。

その注意点とは、Oyster card は「チャージ」することが出来ないということ。

―もちろん、一度購入した後に何度も入金することは可能です(;^_^A
ただ重要なポイントはとして、英語表現として入金を charge と表現しても通じないのです。

日本語の「チャージ」に相当するイギリス英語は"top up" といって、「(量が減ったものを) 上まで満たす」イメージで記憶すると良いでしょう。

実際の使い方は次のようになります:
You can top up your Oyster card online.
「オイスターカードはオンラインで入金出来ます。」 
If you set up Auto top-up, your card is automatically topped up when you touch your Oyster card on a yellow card reader.
「Auto top-upを設定すれば、オイスターカードを黄色のカードリーダーにタッチした時に自動的に入金されます。」

Metaphorがつなぐ共通認識

Oyster card の入金に対して使うべき英単語は charge ではなく top up である…という点は、英語学習、さらには実際の英会話においても非常に重要なポイントといえます。

というのも、現地の人たちが当たり前のように 'top up Oyster card' と言っている中で、うっかり 'I'd like to charge my Oyster card.' などと言ってしまうと、いくら文法的に正しい英語であるとしても誤解を生んでしまうことでしょう。相手にとってみれば、「あえて普通とは異なる語を使っているということは、何か特別なことを望んでいるのではないか?」と、(実際には無駄な)想像をかき立ててしまうことになるからです。

実際の出入金が目には見えない Oyster card のような電子マネーにまつわる言語表現は、より具体的に知覚できる物事との類似性に基づく metaphor に頼らざるを得ない。その際に、どのようなものとの類似性に注目するかという部分は恣意的なものでしかなく、それぞれの言語を使うコミュニティーでの多数決によって決まる。

「チャージ」と言えば充電との類似性であるし、語源をさかのぼれば「荷を積む」という行為との類似性から意味が発展している。一方で top up は元来「容器に液体を満たす」ことに使われる言い方であり、イギリスの紅茶や pub 文化との結びつきが思い起こされる。

このように、metaphor は抽象的な概念をことばで表すときに欠かせない手立ての一つであるわけです。

■実際の top up 体験

さて、今回の London滞在では、一度だけ自分の Oyster cardを top up する経験をしました。

まぁまず自動券売機のような機械というのは unfriendly に作られている。特に観光客のようなよそ者には厳しい。その上、海外ではよくあることですが、お釣りでもらう紙幣というのは日本の感覚からすれば随分とクシャクシャになっていて、これまた券売機との相性が悪い。

なんとか画面の指示通りに「ここに紙幣を投入してください」まで首尾よく進むも、おっかなびっくり操作しているこちらの気持ちを見透かすかのように、そこに紙幣を差し込んでみてもウンともスンとも…(-_-; 日本では、まごついていると「お金を入れてください」などと余計に急かされてイライラするが、イギリスの券売機は無言でじっと待っている。

「何か間違えたか?」という思いも頭の片隅に、どうにか目の前の券売機が自分の差し出す紙幣を飲み込んでくれるように、向きや角度を変えてご機嫌を伺ってみる。

2分ほどは格闘しただろうか、ようやく無事に紙幣が投入され、topped up されたことになる。しかし、とかく異国では、くどいほど確認をしてみないと安心はできない。もう一度 Oyster cardを読み取らせて、たった今 top up したはずの残高を表示させてみる…大丈夫だ。

普段の生活では造作もないことが、土地が変わると何でも時間がかかる。もちろん大変ではあるが、毎日が新しい冒険となり、経験値を貯めて「ロンドンっ子レベル」を上げていくというのがまた醍醐味とも言えよう。ロンドンクエストは続く…次回は職業:魔法使いのスキルアップ記事になるかな?どうぞお楽しみに♪