Saturday, 22 October 2016

大した感謝もされないが…thatの「ねじ」理論

Puffyの隠れた(?)名曲に「ねじポーション」というものがあります。
雨でも風でも嵐でも
個性は光らない
大した感謝もされないわ
Screw up! Yes! ねじポーション
ーねじポーション (作詞: 大貫亜美 作曲: NARGO)

多少こじつけっぽいが、英文法の中で「ねじ」のはたらきをする品詞といえば、接続詞ということになろう。そしてその接続詞も、その存在価値を充分に理解されないまま、実は非常に重要な役割を一身に担っているというケースがあるので、今記事ではそこに光を当ててみたい。

◼︎ that節を等位接続 (and/but/or) する場合、2つ目のthatは必須

次の例文で検討を進めていこう:

He said (that) he liked that town and that he would live there. 
「彼は『この街が気に入った。ここに住みます。』と言った。」

saidの直後の thatは、(  ) で括ったとおり、省略しても構わない。
一方で、赤太字で示した andの後ろの that省略不可である。

言語現象を単に紹介して、「間違えないように注意せよ」というだけなら誰でもできるが、問題は【なぜ】andの後ろの that省略不可になるのか?ということ。

これを考えるには、まず等位接続詞を見たときの原則である「何と何 (←文法的に同じステイタスを持つ要素) が接続されているのか」を確認することがスタート。
上の例では、彼 (He)の発言内容は、直接話法で書けば
  1. "I like this town."
  2. "I will live here."
という2つから成り立っている。

これを間接話法で表した場合を図式化すれば:

He said [① (that) he liked that town] and [② that he would live there].

というようになり、saidの目的語としてはたらく2つの that節 (=発言内容)が結ばれている。したがって、andの後ろの thatは、2つ目の発言の引用開始部分を明確化する役割を果たしている。

◼︎ 2つ目の thatまで省略してしまうと…?

また、もし仮に andの後の thatを省略すると何が起こるか考えてみると良い。上記の通り、等位接続詞は同じ文法ステイタスを持つ要素を結ぶはたらきを担う。しかるに、「主節 + 主節」という (意図しない)接続も可能になってしまうのである:

[① He said (that) he liked this town] and [② he would live there].

このように、 andの後の thatが無いと、②の部分が saidの目的語ではなく、独立した新しい主節として①全体と結びつけられるという無駄な解釈可能性を生んでしまう。

andの後の thatは、文の解釈上で生じうる曖昧性を解消し、正しい理解へと導くための道しるべとしての役割を一身に背負っている。発音上も弱く、言ってみれば地味な機能語ではあるが、実は「ねじ」と同じように、1つ外れると全体がうまく機能しなくなってしまうような重要なパーツなのである。

★Here is the Path to Wonderland☆

文法が先立って存在しているのではない。コミュニケーションが円滑に進むように、ネイティヴが工夫してきた結果が「文法」として記述されているだけである。だからこそ、「言語現象には必ず理由がある」