Saturday, 30 March 2013

聞こえたとおりに発音しろ!という無茶ぶり:「母語マグネット理論」

■聞こえたとおりに真似をすれば発音できるようになる?


ネイティヴの肉声またはCDの音声を聞かせて、「聞こえたとおりに真似して発音してみよう!」と言って "発音指導" をなさる英語科教員が結構いらっしゃいます。

無 茶 を 言 う な 

…英語に限らず、まったく知らない言語のCDやラジオを聞いて、そっくりそのまま真似ができるか?とか考えてみても経験的にわかると思うのですが、この「聞こえたとおりに真似」なんてことは、母語を習得した後の「外国語学習」ではまず無理だと思っていいです。

■母語マグネット理論とは


「聞こえたとおりに真似して発音」が無茶ぶりでしかなく、その "発音指導" では絶対に上達しないだろう、というのを supportする研究というのが実際にあります。

それが、アメリカの心理学者 P. K. Kuhl らが提唱する母語マグネット理論です。
Kuhl らが行った実験によると…

  1. 生後間もない乳児は、世界のさまざまな言語で用いられている普遍的な母音(13種)を区別して聞き分けられる。(生まれた環境によって、どんな言語であっても母語として獲得できるような準備状態にあるということ)
  2. 生後6か月の乳児は、母音について、母語に特化した識別能力を身につける。あいまいな母音は、記憶された母音にもっとも近い音に引き付けられて認識される。
  3. 生後12か月の乳児は、1. の段階で持っていた識別能力を失い、母語に特化した識別だけが可能になる。

う~ん、言い回しが難しいですね(-ω-;
要は、以下の図のイメージです:

生後12か月を越えた日本語母語話者の場合、「ア・イ・ウ・エ・オ」の5つの母音が強力なマグネットとしてはたらくようになり、例えば英語の /æ/ /ɑ/ /ʌ/ /ə/ は、日本語の母音で一番近い音に引き寄せられ、「ア」としてしか認識されなくなるということです。
(注:あくまでも「自然に・無意識に」区別できなくなる、という意味で、発音やリスニングの練習を通して区別できるようにはなれます。)

この研究では母音のことにしか言及されていませんが、子音でも同じことが言えるだろうと思います。
例えば日本語は /l/ と /r/ を区別しないので、royal (王室の)も loyal (忠誠な)も、意識を向けない限りは同じラ行音の「ロイヤル」として認識されてしまう、といったようなことは往々にしてあるでしょう。

★Here is the Path to Wonderland☆

母語マグネットは強力だけど、「外国語用マグネット」は増やせる!
発音練習で増やしたマグネットを強化していこう!

<参考文献>
言語の脳科学―脳はどのようにことばを生みだすか (中公新書)